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01 Prolorue
 01 Prolorue
 日常で起こる些細で(ささいで)不可思議な出来事されが人の思考と行動に影響を与えていく過程と結末を知りたいとは思いませんか。この物語は貴方自身の好奇心と願望に基づいて構成されています、ともすれば見落として(みおとして)しまいがちがいつもの風景の中に貴方がふしぎ工房を見つけること出来るようにお手伝いしましょう、、、、、、

02 天使の羽
 道のみが冬景色へと変わっていく、風が肌を突き刺すように冷たくなってきた、、、、、、コートの襟を立て(たて)家路急ぐ人々の姿が忙しなく見える、その光景を漠然と眺めていたら、ぽつりと顔に冷たい物が落ちてきた、見上げると空に白い結晶が舞っている、それはまるで天使の羽のようにきらきらと美しく輝いていた。
 「ユキだ」
 すると、街灯のイルミネーションに灯りが点った、道の両側をずっと奥に向かってながれていく樅の木を象った(かたどった)光のえんしつに思わず足を止める若いカップルの姿もある、そういえばもうすぐクリスマス!今年は素敵なイブを過せますように、僕は天使に願いをかけるとイヌミネションの中を掻き分けるように進んだ。今夜の僕は少しばかり感傷的だ、普段なら職場の仲間や後輩連中と飲み焼かすことが多いが、気づくと今日は一人だった、皆それぞれに予定があるだろうから、そんな日があってもおかしくない、むしろこの年になっていつでも仲間たちと行動共にしてることのほうが不自然かもしれない、だから今夜の僕は一人であることをかみ締めている、寒さは体にばかりが、心にまで染みてくる冬だからとも思う、クリスマスのように心温かまるイベントもあるが、それを遠くから眺めているとなお更心が冷えてくる、今夜の僕は自分を寂しいと感じている、孤独だと感じている、その理由も分かっている。

03 孤独感
 僕は決して内気で、孤独を好むタイプじゃない、自分というのもなんだけど結構皆に頼られる存在だったりする、仕事ではリーダー角であり、よく先輩として指導にあたっている生活においても個人的相談を持ちかけられることが多い、些細なことでも趣味になって話を聞いてあげる、そして、御前らもっと自信をもって行動しろうよ、言ってやる。ことが常だったりする。アドバイスだけじゃなく実際に手を貸しあげたりもする。結果、僕は自分の時間を多大に消費してしまうことになるんは それもいた仕方ない。皆僕を仕立てくれるし、それを誇りに思っている。僕は皆にとって頼れる兄貴のような存在なんだ。でも皆勘違いしていることに気づかない。僕は世の中の全てを知っているわけじゃないし、なんでも解決出来る能力を備えてわけでもない。ただの普通の人間なんだ。いつの間にか虚勢(きょせい)をはって自分の悩みを人に打ち上げられない存在になっていた。ときとき沈んだ(しずんだ)顔していると後輩たちが心配そうによってくる「大丈夫ですか、疲れているんじゃ、いつも迷惑かけているし」そんな時僕は決まってこう答えてしまう
 「いや大丈夫だ、僕は御前たちの力になることが嬉しいんだ、支える側にいることが幸せなんだ、だからこれからもなんでも言ってくれ。」頭の固すぎで御前は馬鹿だという声が聞こえてくる。本当は違うくせに。実際に人の役に立つことは喜びなんだけれど、本当の僕は支えて欲しいと願っている。支える側にいればいつか支えてもらえる、しかし、それは幻想でしかないのではと考えるようになった、支えるには一生懸命だと皆にそれは当たり前だと思うようになっている、甘えられる相手がいればべったり甘えてしまうから、それが人間という物なんだ。やっと分かってきたのに今の自分ではどうにもならない。もっと素直に
 「助けてくれ、相談に乗ってくれ」と言いたいけれど、それが出来ない自分を作り上げてしまった、見えを張って生きている自分、だから一人でいるとふっと孤独感が募る。実は孤独に弱い自分がいる。

04 見えない壁
 学生のごろすごく好きな女の子がいった。四年間もずっと思っていた、なのに僕はずっと友達のふりをしてきた。彼女が僕を「親友」と言ったから、彼女の最初の彼氏は僕のサークルの先輩だった、次は僕の友達、最後には僕の後輩と、、、、、、いつかは僕に気づいてくれるそう信じていた、だけどもう限界だった。やむなく彼女とは距離をおいたがそれでもあなたが一番大切って言われて その後も暫く友達関係を続けていた。まったく女ってやつは分からない
 「こんな中途半端の関係はこれきりにしよう」
 それをはっきり言えない僕は意気地なしだった自分が付くのは怖かった。なれないナンパをしたことがある友達頼まれだからだ。僕は勇気を奮い起こして、女の子に声をかけった、振り向いた彼女はおどおどとする僕に笑顔を向けてくれた。僕は一遍この子好きになってしまたけれど、そんなことはおくびにも出さず努めて冷静に彼と彼女の仲を取り持った。友達を失いたくなかった。女の子に恋愛の相談をされることも多い僕は真剣に話を聞いてアドバイスをしてあげる「男ってのはこういうもんさ」となにもかも知ったふうな顔をしてばかだなって思う。格好つけすぎなのかもしれない正直言ってこの年になるまで彼女がいない結婚願望だってあるし子供も欲しい見た目も性格もそんなに悪いほうではないと思うだけど、ある時ふるい友人が連れた彼女に言われたことがある
 「壁があるようで近寄りがたい」とそうなんだ僕は知らず知らずのうちに見えない壁を作り、外側に内側とは全く異なる世界を気づいてしまったのだ、臆病の自分を守るために「誰か僕のそばにいてくれ」心の中でそう叫んで自分がいる、、、、、、素敵な女性とイブを過したいなあ。一人でいるとつい本念が口を付いて出る。いつかこんなに素直だったらなあ

05 ふしぎ工房
 イルミネーションをぬけると道はいつもの風景にもっとていたもう雪も止んでしまった。まるで夢が終わってしまったなかのような気さえしてくる。住宅外の中をとぼとぼ歩いていると。いつの間にか道に迷ってしまった「おかしいなあ」いつもの通い慣れた道なのにと思っていると見慣れない(みなれない)看板が見に飛び込んで来た。戸板に筆で殴り書いたように文字で
 「ふしぎ工房」と書かれてある。
 看板の周りを見渡すと何の変哲もない木造の一軒屋があるだけだ。入り口と思われる引き戸に目を映すと張り紙らしきものが見えた
 「ご自由にお入り下さい」とある
 「なんだ、こりぁ?」何だか見てはいけない物を見てしまったような気がして。足場に立ち去ろうとしたら足元で猫の泣き声がした。視線を落とすと小さいな黒猫だった。子猫がま泣いた。「いかにもよってけ」と言わんばかりに、もう一度看板を見て見る、何だか心が暖まるような不思議な感覚に身を包まれた、体が冷え切っている。ここで少し温まってという手もある。僕は好奇心に駆り立てられるように引き戸に手をかけた。中は「ガラン」とした倉庫のようだった部屋の中央に大机があってそこに座っている老人の姿が見えた。老人は僕を見るなり前においてある椅子を勧めた。僕は引き寄せられるようにしてそこに腰を下ろした。
 「ご注文は」静かな口だった
 僕は返って慌てた
「い、いや、ご自由に入ってくださいと書いてあったから」
 老人はめがねのふちを片手で持ちあげて僕をじっと見据えた
「その通りですが」
 部屋をぐるり見渡しでも何を扱(あつか)っているのかあっぱり分からない。
「あ、だけど何を注文していいか分からないじゃないですか」
「ここでは幸せを売っております」
「幸せ!ですか?」
 老人の言葉にはっとした。幸せ?僕の幸せとは一体なんだろう。幸せと言う言葉が僕の頭の中でぐるぐると回転し始める
 僕は別に不幸だってわけではない、職場の仲間達に囲まれてそれなりに人生に生きがいを感じている、ただ、ただ、、、、、、老人が僕の目を覗き込む何もかも見透かされているようで全身が強張った。
 「さびしいんです」
 僕の口から本念が零れた、自分でも意外だった、人の前こんなに素直になれるなんて 子供のごろ以来なかったことだ、僕は自分の思いをいっきにはきだした。恵まれて(めぐまれて)いない人に比べれば自分は十分に幸せのことは分かっていますだけどあまりに今の自分が自分出ないためにどうしようもなく孤独で不安なんです。素直な自分が出せないんです、こんな僕にたって支えてくれる人が必要なんです。僕の意味不明な話をじっと聞いていた老人は今度はやさしい声で言った:
 「貴方が幸せになれないと周りの人も幸せになれませんよ」
 衝撃だった!僕は周りの人間を幸せにしていると勘違いしていた、本当は皆が僕に気を使っているのかもしれない、僕が壁を作っていること実は皆が知っていて、逆に苦労をかけているのかもしれない。だったら、だったら今までの僕は、、、、、、愕然としていると老人は紙と鉛筆を差し出した。
「さあ、これ、、、、、、」
 なんの変哲もない白い紙に見えたが、注文書と書かれていることは分かった。僕は躊躇なくそこへ書き込んだ:
「僕を支えてくれる彼女が欲しい」と
承知(しょうち)しました」
 老人は注文書の控と請求書と表(おもて)がされた封筒をよこした。
「請求書?」
 どうなシステムだろうと封にてをかけたら、老人に止められた
「後払いの成功報酬になっております」
「成功報酬?あのそれはいつ?」
「イブになったら封を開けなさい、そのときにお代を頂きます」
 老人に促された席を立つと僕はふしぎ工房を後にした。

06 出会い
 僕は夜道を歩きながらふしぎ工房での出来事をいまさらながらのように疑っていた。あれは本当に現実だったのだろうか夢ではなかったのだろうか、つい本念をはいてしまったがあまりにも非現実的な話だ彼女が欲しいなんて注文を出す僕もばかげでいる。あれこれ考えて見たがポケットに注文書の控と請求書がある以上現実にあった出来事であることを疑う余地はない騙されているとも考えられる、請求書の中身が気になってそれに手をかけようとしたところを前方で突然
 「どん」
 という鈍い音がして次に走り去って行くバイクの音が聞こえた。とっさに事故だと思った、慌てて駆けつけると若い女性が倒れていた。
 「大丈夫ですか?しっかりしてください」
 女性には意識がなかった、僕は急いで急救車を読んだ。
 「しっかりして」
 僕は何度も女性に声をかけた、彼女はぴくりとも動かない遠くからサイレンの音が近づいて来た。
 彼女の怪我は比較的軽傷だった、バイク撥ねられたショックで意識を失ったらしい。病院でほっと胸をなで下ろした矢先医師から聴かされたことに僕は言葉を失った
 「彼女はこの事故の後遺症で記憶喪失になった」
 と、、、、、、今は自分の名前すらも思い出せないらしい。彼女は所持品の一切を奪われていたから、すぐは身元(みもと)は分からないということだった、彼女は不運にも引ったくりにあった上に記憶まで失ったのた。病室を訪れると窓の外をぼうっと眺める彼女がいた、灯かりの下で見るとびっくりするほどの美人だった、青ざめて深く沈んだ(しずんだ)表情が反って、その美しさを際立せ(きわだせ)ていた。ふいに彼女が僕に気づき、
 「ありがとうございます」
 と言って頭を下げた、僕に助けられたことは医師から聞いて知っているらしい。
 「いや、大事にいたらなくて本当によかったです」
僕の言葉に彼女は会釈した、ほんの少し口元を綻ばせただけったが僕には天使の笑顔のように思えた。彼女の記憶が戻るまで少しでも力になってやろう。この時、僕はそう心に決めた。
 
07 変化
 次の日から仕事の合間を縫って出来るだけ病院に顔を出すようにした元々軽傷だったから彼女の体力はすぐにも回復した。ただ記憶が戻らないことで彼女は随分と苦しいんでいるように見えた。病院の庭を散歩している時、ふと、彼女が
 「このまま記憶が戻らなかったらどうしよう」
 と呟いて、涙を零した。僕は慌ててそれを打ち消すように明るく振舞った
 「そんなことないって、絶対記憶が戻るからそれまでゆっくりしてればいいよ、とにかく焦っちゃだめ、ね、元気を出して」
彼女も
 「そうよね」
 と言って微笑んだ、作り笑いだと思うんが、僕は彼女の笑顔が好きだった。彼女の笑顔が見たいから僕はここにいる、そう言ってもいいかもしれない、彼女を病室に送り届けてから僕は外のベンチに腰を下ろして物思いに耽った。
不謹慎かもしれないが今の僕は幸せを感じている。頭の片隅に彼女の記憶が戻ることを恐れている自分もいる、それを振り払うように首を振って見るがその考えは頭を離れない、若し記憶が戻らなかったら、、、、、、声に出して言って見るとより現実感がまして自分を責めたくなってくる。その言葉の先に僕が面倒を見るからそれでもかまわないと言っている もう一人の自分がいる。
  「あっ」
  思わず溜息をついて病室を見上げる。すると窓際に立って手を振っている彼女の姿が目に映った。僕も手を上げて答える。
  「さってと」
  僕はベンチから腰を持ち上げると病院の外へ向かって歩き出した。今そのことを考えるのはやめよう、とにかく彼女の幸せを願わなければいけない。彼女の記憶が戻ることを望まなければいけない、彼女の笑顔は僕の幸せでもあるから。それに記憶が戻ればもっといい関係になってなれるはず。よし、頑張ろう!自分に言い聞かせるように、僕は街中へと駆け出した。
  どうやら職場でも僕は少し変わったように見えるらしい。生き生きしている、明るくなったとも言われる。別に普段通りにしているつもりだが、どこからか活力が湧き出ている気がする。彼女のおかげかなと思っていると、後輩の女の子からまだ相談を持ちかけられた。前にも相談を受けたことがある、恋愛についてだ。彼女の話によると好きな人がいるが、どうしても自分に気づいてくれないという話だった。告白も考えたが、恥ずかしくてどうしても出来ないとしたおもく。
  「今までは男ってそういうもんだから、気長に待てばいい。」
  とか言って話しを濁(にご)してきたが、どやら その彼に好きな人が出来たかもしれないと彼女は涙を零し始めた。彼女は元来内気でおとなしい性格だから、無理もない。しかしこれには参った。実のところ僕には恋愛経験が少ない。だから取るべき手段も限られている。その彼が僕の知り合いならば腕ずくでも仲を取り持てやるのだが、そんなことをしたら私は死んでしまうと言って 相手が誰かも教えてくれない。むしろ、僕の知らない人間だと解釈するしかない。暫く無言(むごん)で腕を組んでいたが、僕には珍しくある考えがを浮かんだ。
  「そうだ!もうすぐクリスマスだろう?だから手料理でも作って彼を家に招待したらどうだ?二人きりっていちゃうと経験される可能性があるから、ホームパーティってことにするんだ、そこで告白するどうだ?」
  彼女は暫くじっとしていたが「若し来てくれなかったら」と可能なくような声でまた答えを求めていた。僕は確信もないくせに胸を張った。
  「きっと来てくれるさ!自信を持って御前の自慢な手料理を台無しにするやつなんかいるもんか?」
  彼女の顔に笑顔が戻った。
  「はい、頑張ります。」
  と言って席を立ち小走りにかけていた。
  「ええ」
  僕は大きく溜息をつくと無責任なことを言ちゃったかなと反省を始めた。しかし、強(あなが)ち口から出任せを言った つもりはない、なぜなら僕自身病院にいる彼女にクリスマスイブに告白すると決まっていたからだ。彼女は日に日に元気を取り戻している、記憶がまだ戻らないが顔色がいい。いつだったかいつものように病院の庭を散歩していたら 偶然彼女の手に触れたことがある。その時は二人ども飛び上がって驚いてしまったが、そのうち 時々手を差し伸べると、彼女の躊躇(ためら)いも消えて 手を繋ぐことも度々あった。彼女も僕に恋を寄せている、僕はそう確信していた。だから彼女の記憶が戻っても もう怖くなんかない。むしろ、記憶が戻った時こそ、僕達のゴールだと信じている。だから彼女にクリスマスのことを話して病院に外出許可を取ってもらった。素敵なイブを過そうと約束したんだ。クリスマスはもうそこに迫っていた。
 
  08 人生最高の日……?
  何日かして、ついにその日が来た。この日は土曜日。仕事も午前中までだ。僕は職場を出ると急いで家に戻り、みじたくを始めた。次に行くのは花屋だ。自分でもちょっと気障(きざ) かなと思ったが、迷わず赤い薔薇を選んだ。たくさんのばらを彼女にプレゼントをしよう。僕は浮き足立って いた。花屋を出たことろで携帯が鳴った。病院からだった。僕は慌てて電話を手に取った。
  「もしもし、何があったのですか?もしや彼女のみに……え-?」
  僕は病院に向かって一目散(いちもくさん)に駆け出した。説明に依ると彼女の記憶が戻って退院できることになったらしい。彼女の両親も来ていると詰められて、僕は無我夢中で走った。
  「おめでとう!」
  とにかくそれが言ったかった。こんなイブの日に神様もおしゃれたことをしてくれる。本当によかった、今日は人生最高の日かもしれない。
  病室のドアを開けると両親と抱き合って泣いている彼女の姿があった。彼女も僕に気づいて満面の笑みで迎えてくれた。僕も感動で目を潤ませた。
  「よかった!本当に……」
  彼女から説明を受けていたのだろう?両親が僕の手を取り、何度も頭を下げて感謝の言葉を繰り返した。
  「いやぁ、ただ僕は娘さんの役に立ちたかっただけで。」
  そう言いかけて僕は彼女の傍らに立つ男性の姿に目を奪われた。年格好は僕と同じくらいに見える、弟ではなさそうだ。するとお兄さんか?彼は僕を見てふかぶかと頭を下げた。それに気づいた彼女の両親は僕に彼を紹介した。
  「娘の婚約者です。」
  と頭をハンマーで殴られたのようなショックに僕は思わずあとずさった。よく聞けば来月には結婚式を挙げる予定だという。予測出来たことだ、こうなることは。彼女に恋人がいても何等(なんら) ふしぎではない、ましてや結婚してる可能性だってある。だからこそ僕は彼女の記憶が戻ることを恐れた。その自分を叱責(しっせき)しながらやっとここまで来れた。こうして病院に辿り着く本の数分前には彼女の全快(ぜんかい)を心から喜(よろこ)んでいた。でも今の僕の心は悲鳴をあげている。情けないと分かっていながら涙を流している。両親が僕の手に持つ花束にいまさらのように気づいた。僕は自分の心を押し隠すことに懸命になった。
「ああ、これは全快祝いです。本当によかった。おめでとう。」
 そう言って、彼女に花束を渡すと
 「本当にありがとう」
 と言って、涙ながらに僕に抱きついてきた。この後に及んでその無邪気な恋が僕の心を揺り動かす、体を離すと彼女の胡乱だ目が僕に「ごめんね」と言っていた。僕は観念した。そうなんだ、彼女は婚約者を愛している。それは鈍感な僕にも痛いほどよく分かる。彼女は目で僕に別れを付けた。彼女の両親に向き直って、一つだけ疑問をぶつけた。
「なぜすぐに来れなかったんです?」
 と。説明に依ると両親は海外旅行の間最中で回国してから娘の行方がしらないことに気づき、捜索願いを出したという。婚約者のほうも長期出張中でこの事故に気づかなかったと。仕方のない親だ。それに この婚約者は間抜けかもしれない。この間メールもなかっただろうから 少しは心配しろうよ。彼女のことが気にならないほどに仕事が忙しいっていうのか?僕は文句の一つも言ってやりたかったが、ぐっと耐えて彼女の退院を見送ることにした。車の中から何度も僕に頭を下げる彼女と両親。両親は、この僕は改めてさせていただきますと言った。婚約者と言えばもう僕に見向(みむ)きもしない。知らない間に虫でも付いたくらいに思っているのだろう?僕は車の影が見えなくなるまで彼女を目送った。
 
  09 彼女からのメール
  視界から完全に車が消えて、僕は病院の庭のベンチに腰を下ろした。この庭には彼女との思い出が一杯詰まっている。僕はふふっと笑いを零した。そうさ、いつだって僕はこういう役回りなんだ。今に始まったことじゃない。僕にはこうやって生きて行くのがお似合いなのさ。そう思ったら、泣けてきた。泣き笑いというか、自分でも妙に可笑しい笑い方だった。自分が惨(みじ)めて仕方なかった。すると携帯のチャック信音が鳴った。開いてみると彼女からのメールだった。僕は恐る恐るそれに目を通した、やや長めの文書だった。
  「本当は手紙を書こうと思ったんだけど、早く伝えたくてメールにしました。記憶が戻ったばかりで混乱もしていたから、きちんとお礼も言えずに退院しちゃって ごめんなさい。私の力になってくれてありがとう。貴方に助けられたからこそ今日の私があります。病院にいる間ずっと貴方が支えてくれた。何も思い出せなくて苦しみもしたけど、貴方と過した時間は掛け替えのないものだったし、今となっては楽しい思い出です。来月には結婚するけど貴方のことは一生忘れません。本当にありがとう。そして、貴方の気持ちに答えられなくて本当にごめんなさい。」
  握ったままの携帯の上に涙が落ち、画面を濡らした。
  堪(こら)え切れずに鳴咽(おえつ)を漏(も)らした人目も憚(はばか)らずに声を上げて泣いた。生まれて初めて、こんなに泣いた。それほど、僕は彼女好きだった。病院にいる間、彼女が僕を必要としていたわけじゃない、僕が彼女を必要としていたのだ。それが分かって、涙が止まらなかった。
  あれから暫く僕は病院の中庭にいた。何をするでもなく、ただ呆然とベンチに座っていた。辺りが暗くなり始めて、僕は漸(ようや)くそこを離れた。
 
  10 クリスマスイブ
  ふらふらとネオンに彩(いろど)られた町中を歩いた 。。街道にはジングルベルが振れ今夜がクリスマスイブであることを宣伝縞(しま)繰(く)っている。思い出したように予約していた店にキャンセルを入れた。彼女と行くはずだった店に、一人で食事をする気になんか到底ならない。家に返る気もなれない。暫く町をうるついた後気づくと職場のビルの前に立ていた。他に行くところがないのか、僕は?いつもの習慣でここに来てしまったことに我ながら飽きれたが、ふとビルの窓に灯りが点っていることに気づき、
 「おや?」
 と思った。今日は皆午後には返ったはず、しかもイブの夜に誰かが残っているはずもない。さては電気の消し忘れか?
  「やれやれ!またしても僕はこんな役回りか?」
  と諦めつつビルの階段を登った。ドアを開けるとそこに後輩の彼女がいて、ちょっと面食らった。
  「あれ、どうしたの、なんで事務所にいるの?」
  僕の声に飛び上がるように驚いた彼女はそのまましたを向いてしまった。僕はあることに思いだった。ホームパーティで彼を家に呼んだじゃなかったのか?さては
  「彼来なかったのか?」
  彼女は俯いたまま
 「声をかけられなかったんです。」と答えた。
  「馬鹿だなあ!それじゃ何の意味もないだろう?料理は作ったのか?」
  彼女は黙ってこっくりと頷(うなず)いた。
  「じゃ友達でも呼べばよかったのに!料理は台無しだろう?それもそうだけど、なんでここに一人でいるの?」
  彼女の手の甲にぼつりと涙が落ちた
 「声もかけられずに今日になちゃって、それでも料理だけは作って、どうしようか迷っていたらもう夜になっちゃって、友達に電話したら予定が入っていて、一人で家にいたら 居た堪れなくなって、気づくいたら ここにいた。」と
 「僕と同じだなぁ。」
 と思ったら笑いがこみ上げてきた。くすくす笑っていたら 彼女は真っ赤の顔をして 「ひどいです、笑わないでください。」と怒った      
 「はは、、、ごめん、ごめん。つい」
「先輩のほうこそどうしてここに?」と今度は彼女が聞いた。
「いや、俺振られちゃったんだ。」
  自分でもびっくりした。こんな素直な自分には覚えがない。あの彼女に別れを詰められたイブの夜の寂しさが僕を変えたのか?行き着いた職場に人がいたことで、孤独から開放された気になったのか?いずれにしても目の前で俯いている彼女に対する責任は多少なりども僕にある。彼女にアドバイスしたのは僕だから。
「よかったら、振られたもの同士一緒に飯を食うか?せっかくの手料理勿体無いもんな。」
  すると彼女は顔をあげ
 「え?」と驚いたような声をあげた。僕は少し慌てた。
「いや別に無理にとは言わないから、イブの相手が俺じゃいやだったかな?」
  そういうと彼女は「そんなことないです。是非お願いします。」と頭を下げた。僕達は職場の戸締(とじま)りをして外に出た。

11 epilorue
 外ではいつの間にか雨が降っていた職場にいた僅か三十分足らずのうちに降り出したらしい 
 「あいにくの天気になったな、まるで俺達の涙みたいだ」
冗談のつもりだったが彼女は無言だった。ちょっと忸怩(じくじ)だなとお思いつつ職場に傘が一本しかなかったから、合縁(あいえん)傘で並んで歩ていた彼女の家は歩いてもそう遠くない所にあった実のどころ女の子の部屋にあがるのは初めてだったから少し緊張した、彼女にどうぞと言われて靴を脱いだら、まず目に入った光景に驚いたテーブルに並べられた料理の数々すごい量だ真ん中には大きいなクリスマスケーキがある豪華としかいいようがない
 「これ全部一人で作ったの」
 彼女は
 「はい」
 と言って僕をテーブルにつかせてから台所に立った。
女の子の部屋をじろじろ見回すもんじゃないと思ったけれど、クリスマスツリーだけじゃなく部屋中がクリスマスい一色に飾りつけられたことに目を見張った。これだけでも相当大変だろうに。そう思っているとシャンパンが運ばれてきた。前を持って用意された二つのグラスに注がれる。なんたか悪い気がしてきた。
 「ごめんな、相手が俺で」
 シャンパンを片手にそう言うと
 彼女は首を振って
 「違うです」
 といった。
 「え?」
 という顔で彼女を見たら、顔を赤らめていつものか細い声で言った
 「やっと来てくれた」
 「え?」
 僕はあまりの驚きに思わず声を上げてしまった
 「じゃその彼で実は?」
 彼女は恥ずかしそうに僕を見て
 「はい」
 と答えた。僕は開いた口が塞がらなかった、思いもよらないクリスマスの出来事にそしてあまりにも鈍感な自分に言葉を失った。ふいにふしぎ工房のことを思い出して慌ててポッケトを探った封筒を探り当てると急いで封を切った。請求書と書かれたその紙には次のように書かれてあった:
 「貴方の幸せをお届けします、身近に居る貴方を大切に思う人、貴方も大切にしなさい、これを生涯(しょうがい)に渡る報酬としてご請求申し上げます。ふしぎ工房」
ふっと目を上げると彼女の姿がなかった
 「見てください」
 と言う声が横から聞こえた彼女は窓を開けて空を見上げていた、僕も並んで見上げると空からきらきら輝く天使の羽が舞よりて来た、いつの間にか雨は雪に変わっていた
 「おワイトクリスマス」
 僕はそう呟くと彼女は嬉しそうに僕の手にクラスを持たせた
 「メリークリスマス」
 彼女はそう言ってクラスをカチンと鳴らせた
 僕をずっと待ち続けてくれた天使がそこにいた

それから暫くして、僕は何度がふしぎ工房を探して見たが、残念なから、二度とあの看板を見つけることは、出来なかった

========================おわり======================


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